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限界がきたら、
   2.優しさが欲しいなあと呟いてみなさい






今日は深夜まで続くはずだった仕事がたまたま早く終わって、おまけに関係者との約束もない。
よし、今日は久しぶりにリョウクに一緒にご飯食べてもらおう。いっつも夜遅くて申し訳ないもんね。
ゆっくりと湯船にもつかろうか。あ、入浴剤あったはず。入れたら気持ちいだろうなぁ。
それから、誰かを捕まえて一緒に見たくてためておいたDVDも見よう。
うん、今日はいい夜が過ごせそうだ。





僕、パク・ジョンスもとい少女たちの大統領が、そうやって久々に訪れる和やかな夜に
胸を躍らせていたのは一時間前のこと。


僕は今、地獄にいます。




「ヒョン!僕もう耐えきれないよ!!」



部屋に着くなりすごい勢いで扉を開けて入ってきたのは、
あの相談を受けて以来、絶対に関わりたくないと思っていた相手だった。

ああ、ついてない。この瞬間に、僕のスペシャルなナイトは消え去っていったとさ。
まったく、もっとヒョンを労わってほしいね。ま、そんなの言わないけど。違うか、言えないけど。



「…で、何が耐え切れなくなったの?」

「もう!キュヒョナだよキュヒョナ!何があっても笑顔で耐えてきたけど…もう無理だ!!」

「なんで?」

「はぁ…だって聞いてよ、ヒョン…」



…始まってしまった。グッパイ、僕だけの  partynight。
今日は何を言われるんだろうか。あ、耳栓忘れてた。うわー失敗したわ。
どうしようかな、こっそり音楽でも聞いてよっかな。
せめて眩暈を抑える薬ぐらいは飲んでおけばよかった。

ああ、愛しのご馳走が、(リョウクが、とも読むよ☆)愛しの湯船が、愛しのDVDが…
…はい。パク・ジョンス。もうきれいさっぱり諦めました。こんな弟に恵まれたのも、一つの縁ってことで。



「こないださ、一緒にゲームやってたんだよ。
僕全然できなくて、そしてらキュヒョンが、『さっさとクリアしないと今日ヤりませんよ』って
言ってきて!」

「…う、ん」

「僕はそんな気なかったから、言い返してやろうと思ったけどね、
ヒョンのアドバイス通りにこにこ笑って耐えてたんだよ!」

「…うん、えらいえらい。」

「そしたら、ドンへとかヒョクチェとかシウォナが帰ってきてね、
構わず続けてたら、いきなりキュヒョナが服の中に手ぇ突っ込んできたの!!」



あ、それは上ですか、下ですか?
ま、言わなくても分かるってね。はい。スンマセン。



ソンミンは本当に耐え切れないというように俯いてふるふると震えている。
ぎゅっと握りしめた小さくて白い拳は、
今にでもヒョンのこと殴りそうで怖い。(あれ?何で僕なんだろう…自分で言っといて分かんないや、年かな…)


ここはなるべく慎重に。とりあえずこれ以上話を聞くのはごめんだ。

そう思ってさっさとアドバイスしようとした、その刹那。



「しかもね、ヒョン!聞いてよ!」



弾かれた様に顔をあげたソンミンが、キッと僕を睨みつけて声を張る。
しまった。これは、タイミングを逃したということではないか、くそっ…



「その後もずーっと何食わぬ顔して、触ったり撫でたりさ…
さすがに僕だってもう無理で止めたんだけど、
メンバーいるからあんま大声で注意できなくてさ…」

「…ヒョンちょっと頭痛薬飲んでいい?」

「ダメ!話はまだ終わってないの!!でね、その後ね、
必死で声我慢してる僕を見てニヤニヤしたりして…ホント無理!これ以上笑えない!!
アイツ鬼だよ鬼!」

「ごめん、やっぱヒョン頭痛薬…」

「それでね、ようやくメンバーが部屋に戻った時、言ってやったんだよ!バシッと!!
そしたらキュヒョナ…『声漏らして恥ずかしがるミニも見たかったんだけど。』なんて
意味わかんないこと言うの!ねえヒョン、キュヒョナに心はないの!?」




助けて!誰か頼む頭痛薬を!!
ヒョン死んじゃう!ソンミニ、お前だって十分心無いよ!!



「あ、ちょっと!ヒョンどこ行くの!!」



フラフラと立ち上がって、千鳥足にも近い足取りで、僕は部屋を出ようとドアノブを握る。
背中にぶつかるソンミンの声を渾身の力で弾き返して、
僕は振り返って、にっこりと笑ってやった。



「ソンミニ、とりあえず、これだけは実行してごらん。」

「ん?」














優しさが欲しいなあと呟いてみなさい。





(じゃあ、今から頭痛薬買ってきます。)










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